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受胎告知 (ヤン・ファン・エイク) : ウィキペディア日本語版
受胎告知 (ヤン・ファン・エイク)[じゅたいこくち]

受胎告知』(じゅたいこくち(、))は、初期フランドル派の画家ヤン・ファン・エイクが1434年から1436年ごろにかけて描いた絵画。ワシントン・ナショナル・ギャラリーに所蔵されている〔ヤン・ファン・エイクが描いた『受胎告知』と呼ばれる作品には他にティッセン=ボルネミッサ美術館所蔵のものもある〕。もとは板(パネル)に油彩で描かれた作品だったが、19世紀にカンバスに移植された。三連祭壇画を構成する左翼内側のパネルではないかと考えられており、残りのパネルは1817年以前から不明となっている。『受胎告知』は非常に複雑で難解な作品で、描かれているものが何を意味しているのか(図像学)は現在でも美術史家の間で議論となっている。
大天使ガブリエル聖母マリア神の子を身ごもることを伝える、新約聖書ルカ伝の1章26節から38節の「受胎告知」の場面を描いた作品で、ガブリエルの口もとにはマリアに伝えた「おめでとう、恵まれた方よ (''AVE GRÃ. PLENA'')〔ルカ伝1章28節より〕」が書かれている。マリアはガブリエルから一歩退いて「主の侍女を見守りたまえ (''ECCE ANCILLA DÑI'')〔ルカ伝1章38節より〕」と控えめに応えた言葉が、天上の神に見えるよう上下逆さまにされてマリアの口もとに書かれている。左上の窓からは聖霊が人間にもたらすという7つの賜物 (:en:Seven gifts of the Holy Spirit) が7本の光明となって、聖霊を象徴するハトとともに降り注いでいる。「神が人間を救済しようとする、まさにその瞬間を捉えた絵画である。キリストの顕現のもと、法が支配していた古い時代は神の恵みに満ちた新しい時代へと変革した」
== 神殿 ==
中世ではマリアはエルサレム神殿に仕え、他の侍女とともに神殿の至聖所の垂幕を紡ぐ仕事をしている学問好きな女性だったと信じられていた〔Schiller p.34 新約聖書外典「ヤコブによる原福音」より〕。マリアが読んでいる時祷書は女性用のものとしては大きすぎるが、他の絵画ではマリアが神殿で非常に重要な研究をしているという表現がされているものもある。また中世には、ガブリエルが現れたときにマリアが読んでいたのは旧約聖書イザヤ書だったと規定した権力者も存在した〔Schiller pp.34-5, 41-2.〕。ファン・エイクはこの「エルサレム神殿に仕え、神殿内で本を読むマリア」という情景をパネル絵として描いたほぼ最初の画家である。もっとも装飾写本の挿絵ではもっと古くからこの情景は描写されており、『受胎告知』をファン・エイクに依頼したと思われる修道院にもこの情景が描かれた1397年の祭壇画が存在していた〔Hand 1986, p.81, who does not mention the altarpiece of 1397 by Melchior Broederlam (from the Chartreuse de Champmol, now Dijon Museum) - Schiller p.49 & (fig 111), also discussed in Purtle 1999,p.4, and in the Losh External link below (fig 4)〕。
描かれている神殿は古い様式のロマネスク様式ではなくゴシック様式寄りに描かれ、上部の大部分は薄暗く下部に行くほど明るく表現されている〔Many recent writers have stressed that the architecture of the buildings is not as anomalous, and therefore symbolic, as it might appear, and as Panovsky thought it. See Harbison pp. 151-57, & 212, also Purtle 1999, p.3-4.〕。これはキリスト生誕以前の神と人との古い契約 (:en:Covenant (biblical)) が闇で表され、受胎告知とともに新しい契約 (:en:New Covenant) が成立したことが光となって表されているのである。ロマネスク様式の建築物では普通だった平らな木板の天井は欠落したまま放置されて描かれ、その板張りは不自然にさえ見える〔Purtle, 1999, p 2 and notes〕。ロマネスク様式の建物はキリスト教徒ではなくユダヤ教徒を象徴するという寓意はファン・エイクやその追随者がよく用いた表現で、他にもロマネスク様式とゴシック様式をそれぞれユダヤ教徒とキリスト教徒の象徴として同じ建物に描いている絵画がある〔Schiller, pp. 49-50. Purtle 1999, p. 4 and notes 9-14. Also see Gallery, and ''The Iconography of the Temple in Northern Renaissance Art'' by Yona Pinson 〕。
神殿の内装は旧約聖書の内容どおりに表現されているが、中世でメシア到来の前兆とされていた様々なものが描かれている。中央手前の床のタイルにはゴリアテを倒すダビデが描かれ、これはキリストが悪魔の誘惑を退けることの予言となっている。中央奥のタイルにはサムソンペリシテ人の寺院を破壊する場面が描かれており、中世の伝承ではキリストの磔刑最後の審判の予兆とされる。左側のタイルに描かれている、ゴリアテを裏切ってその力の源であるゴリアテの髪を剃るデリラはキリストへの裏切りを意味し、ソロモンのペリシテ人殺害はキリストの罪業の克服を意味している。また、隠れてほとんど見えないが、ダビデ王に反旗を翻し殺害されるアブサロムとペリシテ人の王アビメレク]がタイルに描かれているとする美術史家たちもいる。最初にこれらの図像解釈の多くを行った美術史家エルヴィン・パノフスキーは、四角いタイルの境界にある丸いタイルに描かれた黄道十二宮など天文学上のシンボルにも何か重要な意味があるのではないかと考え、後にこれらを追加した新しい解釈を提示した〔Hand pp. 80-1〕。
背後の壁にはキリスト教の三位一体を意味すると思われる三枚のガラス窓の上に、旧約聖書の唯一神ヤハウェを象ったステンドグラスと、その両横にぼんやりとした壁画がある。ファラオの娘に拾われるモーゼが描かれた左の壁画は受胎告知そのものの予兆で、モーゼの十戒の授受が描かれた右の壁画はキリストがもたらす新しい神と人との契約に対応している。さらにその下にはイサクヤコブが小さな円形パネルに描かれているが、この二人についてはさまざまな解釈がなされており定説が存在しない〔 Hand p.80, Purtle, 1999, pp 5-6〕。マリアの前にあるユリの花は清浄を表し、伝統的なマリアの象徴である。誰も座っていない椅子はおそらく空の玉座 (throne) を意味しており、これはキリストの象徴としてビザンティン美術初期までさかのぼることが出来る〔Hand pp 79 & 81〕。

抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)
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